診療時間
ご予約・ご相談はこちらから

咳が続くと肋骨が折れる?更年期女性は要注意の「咳と骨折リスク」について

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

「咳が長引いて胸が痛い…」その痛み、実は骨折かもしれません。

特に更年期や閉経後の女性は、骨密度の低下によって、咳による肋骨の疲労骨折が起こりやすくなります。

この記事では、慢性の咳と骨粗しょう症の意外な関係をわかりやすく解説し、見逃してはいけない体のサインや受診の目安をお伝えします。

1. 更年期女性に多い「咳と骨折リスク」の関係


更年期以降の女性は、ホルモンバランスの変化によって骨がもろくなりがちです。その状態で強く咳き込むと、骨に想像以上の負担がかかります。

実際、日本骨粗鬆症学会の報告によれば、50歳代女性のおよそ20%、60歳代では約50%以上が骨粗しょう症またはその予備軍に該当するとされており、年齢とともにその割合は急激に増加します。

骨量は閉経後5〜10年間で急激に減少し、年間2〜3%のスピードで骨密度が低下するといわれています。これにより、通常なら耐えられる咳の圧力でも骨が損傷を受けやすくなってしまうのです。

1-1. 咳が原因で骨が折れるって本当?

意外かもしれませんが、咳だけで肋骨が折れてしまうことがあります。

これは「咳による疲労骨折」と呼ばれ、特に骨密度が低くなった状態では、強く咳き込んだり、咳が長く続いたりするだけで起こることがあるのです。

高齢者や骨粗しょう症のある方に限らず、更年期女性でも多く報告されており、見逃しがちなリスクの一つです。

1-2. 更年期に骨が弱くなる理由

閉経前後の女性は、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が急激に減少します。

エストロゲンには骨の新陳代謝を正常に保つ働きがあるため、減少すると骨がスカスカになりやすく、骨粗しょう症のリスクが高まります。

厚生労働省の調査によれば、日本人女性の約50%が60代で骨粗しょう症のリスクを抱えているというデータもあります。

◆「激しい咳が続いてあばら骨が痛いときは」>>

【参考情報】“Estrogen deficiency and bone loss: an inflammatory tale” by PMC (National Institutes of Health)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1451218//

2. 骨粗しょう症と慢性咳との関連性


慢性的な咳の原因は、気管支喘息や咳喘息、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などさまざまですが、骨密度の低い方にとっては、その咳が思わぬ事故の引き金になることがあります。

2-1. 咳が骨折を引き起こすメカニズム

咳をする際、胸の筋肉や肋骨周囲の筋肉に大きな圧がかかります。

繰り返されることで肋骨にストレスがたまり、ヒビや骨折が生じることがあります。COPD患者では、骨密度の低下と咳の反復による肋骨骨折の合併がよく見られ、医療現場でも注意されている問題です。

実際、ある研究によるとCOPD患者の約35~50%が骨粗しょう症または骨量減少の状態にあるとされており、その背景には慢性的なステロイド使用や運動量の低下、炎症による骨吸収の促進など複数の要因が指摘されています。

また、COPD患者は咳発作が頻繁に起こるため、肋骨や脊椎の圧迫骨折のリスクも高いことが報告されています。これらの疾患は単に呼吸器系の問題にとどまらず、全身の骨健康にも影響を及ぼしているのです。

【参考情報】“Management of Fracture Risk in Patients with Chronic Obstructive Pulmonary Disease” by European Respiratory Society
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7311204/

2-2. 咳と骨密度の低下はセットで考えるべき

咳止めだけで対処していると、肋骨の疲労骨折に気づかずに生活してしまい、悪化させることがあります。

慢性的な咳のある更年期世代の方は、「咳の治療」と同時に「骨の状態確認」も意識することが大切です。

◆「咳と乾燥の関係と、おすすめの乾燥対策」>>

【参考情報】『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン』日本骨粗鬆症学会
http://www.josteo.com/data/publications/guideline/2015_01.pdf

3. 咳が続くときに注意すべき身体のサイン


「風邪が長引いているだけ」と思っていた咳が、実は別の病気のサインだったり、骨折を伴っていたりすることもあります。

慢性咳嗽の背景には、咳喘息や後鼻漏症候群、胃食道逆流症など、気付きにくい疾患が隠れている場合もあり、長期間にわたって体へ負担がかかる可能性があります。

3-1. 寝返りで痛む?それは骨折かもしれません

咳をしたあとに「胸の横あたりがズキッとする」「寝返りを打つと痛む」「深呼吸がしにくい」などの症状がある場合、肋骨の疲労骨折が疑われます。

X線やCTによる画像診断で判明することが多く、自己判断せずに受診することが大切です。

さらに、咳にともなって胸や背中、肩甲骨周囲に痛みを感じるケースでは、筋肉痛や肋骨の損傷、神経の圧迫などさまざまな原因が考えられます。

特に、痛みが徐々に強くなる、夜間に悪化する、押すと鋭い痛みがあるなどの症状がみられる場合は、単なる咳による一時的な不快感ではない可能性があるため注意が必要です。

また、声のかすれや嗄声、のどの違和感、体重減少などの全身症状が並行して現れている場合は、早急に医療機関での精査が必要となります。

3-2. 胸の痛みを自己判断しないで

特に更年期以降の女性は、「骨が折れるなんて大げさ」と思いがちですが、痛みを我慢して過ごしてしまうと、日常生活に支障が出たり、骨折が悪化したりすることも。胸の痛みがあるときは、医療機関を受診しましょう。

◆「咳・倦怠感が強いときに考えられる病気や対処法、病院受診の目安」>>

4. 呼吸器内科と整形外科、どちらを受診すべき?


咳が続いているけれど、胸が痛いのは骨のせい?肺のせい?…と悩んでしまう方も多いのではないでしょうか。以下に解説します。

4-1. まずは呼吸器内科で咳の原因を明らかに

咳喘息や気管支炎、COPDなど、呼吸器系の病気が潜んでいる可能性があるため、まずは呼吸器内科で詳しく調べましょう。

呼吸機能検査(スパイロメトリー)、胸部レントゲン、呼気NO検査などを通じて診断を行います。

4-2. 骨折が疑われる場合は整形外科も

胸の痛みが強い、寝返りでズキッとくる、などの症状があれば、整形外科で肋骨の骨折がないか確認してもらうと安心です。必要に応じてMRIや骨密度測定も検討されます。

例えば60代女性のケースで、数週間続く乾いた咳のあと、胸にズキッとする痛みが走り、夜も寝返りで目が覚めるようになったといいます。まずは呼吸器内科を受診し、検査を実施。その結果、咳喘息の可能性が示唆され、吸入ステロイド薬の使用が開始されました。

しかし胸の痛みが治まらないため、整形外科でも精査を受けたところ、肋骨に小さなヒビが見つかりました。このように、咳の原因と骨の異常の両面から診ることで、正しい診断と治療に結びつくのです。

このように、まずは咳の原因を明確にするために呼吸器内科を受診し、痛みの部位や性質に応じて整形外科の併診を検討するのが適切です。

◆「咳が止まらない…何科の病院に行く?」>>

【参考情報】『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/publication/jrs_guidelines/20250404085247.html

5. 肋骨の疲労骨折を予防するには


「骨が折れてからでは遅い」──そんなリスクを避けるために、日常生活でできる対策を紹介します。

5-1.まずは生活習慣の見直しを

まず大切なのは、骨密度を維持・向上させる生活習慣です。

特に運動は骨に刺激を与え、強く保つために効果的です。

たとえば、毎日30分程度のウォーキングや、軽度のジャンプ運動、ゆっくりとしたスクワット、踏み台昇降などが推奨されます。さらに、骨にやさしいストレッチやヨガ、背筋を意識した体幹トレーニングも骨折予防に役立ちます。

ただし、過度な衝撃や姿勢の崩れによる転倒には注意が必要なため、無理のない範囲で継続できる運動を選ぶことが重要です。

5-2. 咳を軽く見ずに医療機関へ

咳はつい放置してしまいがちな症状ですが、長引く場合は必ず呼吸器内科を受診してください。

3週間以上続く咳は「慢性咳嗽」に分類されるため、専門的な評価と治療が必要です。

5-3. 骨密度のチェックを定期的に

閉経後の女性は、骨密度の定期検査をおすすめします。あわせて、骨を強く保つための習慣も大切です。

ウォーキングや軽いスクワットといった負荷のかかる運動、カルシウム・ビタミンDの摂取、日光を浴びる生活などが効果的です。

◆「1週間以上咳がとまらない時はどうすればいい?」>>

【参考情報】『骨粗鬆症マネージャー制度について』日本骨粗鬆症学会
http://www.josteo.com/medical/manager/

5-4. 栄養管理も重要なポイント

骨を丈夫に保つためには、運動だけでなく栄養バランスも欠かせません。

特にカルシウムやビタミンD、ビタミンK、マグネシウムなどは骨の形成と維持に不可欠な栄養素です。

これらを積極的に取り入れることで骨密度の低下を防ぐことが期待できます。

・カルシウム:乳製品(牛乳・ヨーグルト・チーズ)、小魚、青菜類(小松菜、ほうれん草など)
・ビタミンD:鮭やサバなどの魚類、きのこ類、日光浴による皮膚での合成
・ビタミンK:納豆、ブロッコリー、ほうれん草など
・マグネシウム:ナッツ類、海藻、豆類

特に更年期世代の女性では、1日のカルシウム推奨摂取量(650~800mg)を意識的に確保することが推奨されます。

栄養不足が気になる場合は、医師や管理栄養士に相談し、必要に応じてサプリメントの活用を検討してもよいでしょう。

6. まとめに

長引く咳と骨折リスクの関係は、意外と見過ごされがちです。

特に更年期・閉経後の女性は、咳による肋骨の疲労骨折が起こりやすくなっています。

「ただの咳だから」と軽く見ず、早めに呼吸器内科を受診しましょう。

咳の原因をきちんと見極めることで、痛みや骨折のリスクも予防することができます。

記事のカテゴリー

診療時間
アクセス