対策しよう!咳の原因はPM2.5かもしれません
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

「春先になると咳が出る」
毎年そのような症状に悩まされている方もいるでしょう。
咳の原因はさまざまですが、春先に出る長引く咳は、花粉や黄砂、PM2.5が原因かもしれません。
今回の記事では、咳の原因のひとつであるPM2.5が及ぼす影響や症状、引き起こす病気、普段できる対策について詳しく解説します。
春先の咳でお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。
1. PM2.5は黄砂と違うの?
PM2.5と黄砂は別物です。しかし、「どちらも中国から飛んでくる」と認識している方も少なくありません。
これは、偏西風の影響でどちらも中国方向から飛散してくるため、そのようなイメージがあるのでしょう。
以下の表は、PM2.5と黄砂の違いです。
PM2.5 | 黄砂 | |
---|---|---|
時期 | 時期を問わず発生するが、2月~春先に濃度が上昇 | 2月~5月頃 |
発生場所 | 黄砂とともに運ばれてくるが、日本国内でも発生 | 中国内陸部や東アジアの砂漠 |
大きさ | 直径2.5マイクロメートル以下 | 日本に飛んでくるものは3~4マイクロメートル |
含まれる成分 | 炭素成分、硫酸塩、硝酸塩、そのほか有害物質 | 造岩鉱物、雲母、カオリナイト、緑泥石などの粘土鉱物 |
PM2.5とは、大気中に浮遊する直径2.5マイクロメートル以下の微粒子のことを指します。人体にとって有害な化学物質を含んでいる点が特徴です。
ちなみに髪の毛は約70マイクロメートル、スギ花粉は約30マイクロメートルです。
そのため、PM2.5は非常に小さく、肺の奥深く(肺胞)まで入り込むため、健康に悪影響を及ぼします。
中国から飛んでくるだけでなく、工場の排煙や自動車の排気ガスなどから発生するため、日本国内でも発生しています。
一方、黄砂は中国の砂漠地帯などから飛来する砂粒であり、粒子の大きさは概ね4マイクロメートル以上とPM2.5よりも大きめです。
黄砂は主に自然由来の成分で構成されますが、大気中のPM2.5などの汚染物質を吸着しながら飛来するため、黄砂がPM2.5の一部となることもあります。
流行時期についても違いがあり、黄砂は主に春(3〜5月)に飛来しやすく、PM2.5は1年を通して発生します。
特に冬から春にかけて濃度が高くなる傾向がありますが、これは暖房や発電による化石燃料の燃焼が増えることや、大気の流れが停滞しやすいことが原因です。
【参考情報】『微小粒子状物質(PM2.5)に関する情報』環境省
https://www.env.go.jp/air/osen/pm/info.html#ABOUT
【参考文献】”Particulate Matter (PM) Basics” by United States Environmental Protection Agency
https://www.epa.gov/pm-pollution/particulate-matter-pm-basics
2.PM2.5の症状
PM2.5を吸い込むことであらわれる症状には、以下のようなものがあります。
・咳
・鼻水やくしゃみ
・のどの痛みや違和感
・目のかゆみや充血
・肌のかゆみ
・花粉症や喘息の悪化
PM2.5は、花粉症と同じようなアレルギー症状を起こします。
もともと花粉症がある方や喘息、気管支炎、COPDなどの呼吸器疾患がある方は、その症状の悪化を招く原因です。
アレルギーや呼吸器系の基礎疾患がない方でも、PM2.5が気道の粘膜を刺激し、咳症状を引き起こす原因となります。
放っておくと咳が長引くため、のどの炎症が悪化し、さらに咳が出やすくなる悪循環です。
そのほか、PM2.5は、咳などの呼吸器系の症状だけでなく、肌や目にも症状があらわれるケースがあります。
PM2.5の粒子が肌に付着し、そのままにしていると肌荒れや肌のかゆみ、アトピー性皮膚炎の悪化を招きます。
また、PM2.5が目の粘膜を刺激すると、かゆみや充血、異物感を引き起こし、鼻の粘膜を刺激すると、鼻水やくしゃみなどの症状が出ます。
目の症状に関しては、コンタクトレンズを使用している人は症状が悪化しやすい傾向です。
また、目をこすることでかゆみや充血がひどくなることがあるため、注意しましょう。
【参考文献】”Particle Pollution and Health” by Department of Health
https://www.health.ny.gov/environmental/indoors/air/pmq_a.htm
3.PM2.5が引き起こす病気
PM2.5は、呼吸器系だけでなく、循環器系の病気をも引き起こす原因であるとわかっています。
PM2.5の粒子は非常に小さく、肺の奥深くまで入り込むため、小さな子どもや高齢者、呼吸器系や循環器系の病気を持つ人は注意が必要です。
ここでは、PM2.5が引き起こす呼吸器系疾患と循環器系疾患について解説します。
【呼吸器系疾患】
呼吸器系では、以下のような疾患が引き起こされる可能性があります。
・喘息
・気管支炎
・肺炎
・肺がん
・慢性閉塞性肺疾患(COPD)
PM2.5を吸い込むことで気道の炎症を引き起こします。そのため、これらの疾患を引き起こすリスクが高くなるのです。
すでに基礎疾患として呼吸器疾患を持っている方は、PM2.5を吸い込むことで、咳や痰の増加、呼吸困難などの症状の悪化や発作の誘発をします。
小児喘息を持つ子どもや高齢者は特に注意が必要です。
また、PM2.5は有害物質のため、長期間を吸入することで、肺の防御機能を低下させ、肺がん発症のリスクを上昇させます。
肺の防御機能が低下すると、細菌やウイルスによる感染症にかかりやすくなります。
特に、抵抗力や体力のない高齢者は肺炎を起こしやすい状態といえるので注意が必要です。
【循環器系疾患】
PM2.5が呼吸器系に影響を与えることは予想できますが、循環器系になぜ影響するのか疑問に思う方もいるでしょう。
循環器系に影響を与える理由として、PM2.5を吸い込むと体内で酸化ストレスを上昇させる原因になるからです。
酸化ストレスとは、酸化反応が引き起こす有害な作用を指します。酸化ストレスがたまると、細胞を傷つけ動脈硬化を引き起こします。
動脈硬化が進むと、循環器系に大きく影響を与えるため、以下のような疾患が引き起こされる可能性が高まります。
・心筋梗塞
・脳梗塞
・不整脈
・狭心症
・大動脈瘤
これらの疾患だけでなく、アルツハイマー病やパーキンソン病など、高齢者に多い脳の病気も酸化ストレスの影響が考えられています。
酸化ストレスが溜まる原因は、PM2.5だけではありません。
喫煙や過度の飲酒、精神的ストレスなどの生活習慣とも関係しています。
症状の悪化や疾患の誘発を防ぐためには、日々の体調管理のほかにも、生活習慣の改善も大切です。
PM2.5だけでなく禁煙や適度な運動、十分な睡眠、バランスのとれた食事など規則正しい生活習慣を心掛けましょう。
【参考情報】『PM2.5の健康影響』日本医科大学医学会雑誌第14巻第4号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/manms/14/4/14_152/_pdf
【参考文献】”Inhalable Particulate Matter and Health (PM2.5 and PM10)” by CALIFORNIA AIR RESOURCES BOARD
https://ww2.arb.ca.gov/resources/inhalable-particulate-matter-and-health
4.PM2.5の対策方法
PM2.5は、一年中飛散していますが、特に濃度が高くなる時期には対策をしておくと安心です。
多くのPM2.5を吸い込むとそれだけ体への影響が大きくなります。日々の体調管理とともに、対策を行いましょう。
PM2.5から身を守るためには、以下のような対策がポイントです。
・マスクの着用
・情報サイトや天気予報の確認
・外出を控える
・窓の開閉を最小限にする
・その他の対策
それぞれの対策について、詳しく紹介します。
4-1.マスクの着用
マスクの着用も有効ですが、一般的な花粉症用やインフルエンザ用のマスクではPM2.5の粒子が小さいためにマスクを通過してしまいます。
そのため、医療用や産業用の高性能な防塵マスクでないと防ぐことができません。
PM2.5対応のN95マスクやDS2マスクを使用することで、微粒子の吸入を防ぐことができます。
隙間ができないように正しく装着しましょう。
4-2.情報サイトや天気予報の確認
さまざまな規制により、近年ではPM2.5の平均濃度は低下傾向で基準値を超える日は少なくなってきています。
しかし、一部の都市部や沿岸部では、国の基準を満たしていない地域があるのも事実です。
油断していると、体に影響を与える可能性があるため、普段の体調管理とともにPM2.5の情報サイトを活用しましょう。
環境省や国立環境研究所のウェブサイト、PM2.5情報を提供するアプリなどがあります。
基準値を超える場合、自治体から注意喚起を出すことが推奨されていますが、自身でもPM2.5の濃度が高い日を把握することは重要です。
「そらまめくん」は、全国の大気汚染状況について、24時間、情報提供している環境省のサイトです。「大気汚染予測システムVENUS」は、国立環境研究所が提供している情報サイトです。
これらのサイトを活用し、自分の住んでいる地域のPM2.5の濃度について、確認しておくと安心です。
4-3.外出を控える
PM2.5が多い日は不要不急の外出を避けるほうがよいでしょう。
どうしても外出する必要がある場合は、帽子や長袖、めがね、マスクを着用し、対策をして外出しましょう。
ツルツルとした素材の洋服を選ぶと、PM2.5の付着を抑えられます。
帰宅時には衣類についた微粒子を払い落としてから室内に入るようにすると、室内へのPM2.5の持ち込みを減らせます。
4-4.窓の開閉を最小限にする
PM2.5の侵入を防ぐため、PM2.5濃度が高いときには換気や窓の開閉を最小限にし、空気清浄機を活用しましょう。
空気清浄機は、普段からフィルターの掃除をしておくと効果的に活用できます。
また、空気清浄機は、メーカーや種類によってPM2.5に対応していないものもあります。購入の際には事前に確認しておくと安心です。
4-5.その他の対策
室内のPM2.5を減らすため、こまめな掃除を心がけましょう。
特に、カーペットやカーテン、ソファなど、布製品はPM2.5の微粒子が付着しやすい素材です。こまめに掃除をし、除去することが重要です。
【参考情報】『PM2.5と受動喫煙対策ハンドブック』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/investigate/pdf/30-2-2-2_06.pdf
5.おわりに
PM2.5は有害物質のひとつで、非常に小さな粒子のため、肺の奥まで入り込みます。
PM2.5は基礎疾患を悪化させるだけでなく、呼吸器系や循環器系に大きな影響を与え、さまざまな疾患を引き起こすことがわかっています。
特に咳や痰などの症状が続く場合、PM2.5が原因かもしれません。日々の健康管理に加え、PM2.5の情報をチェックし、適切な対策を行うことが大切です。
咳が続く場合やアレルギー症状がある場合など、気になる症状が続く場合は、早めに医療機関に相談しましょう。