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睡眠時無呼吸症候群の基本情報

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

家族から「いびきがうるさい」「寝ている間に息が止まっている」などの指摘を受けたことはありませんか?

加えて「熟睡感がなく日中に強い眠気がある」「太り気味で血圧が高い」などにあてはまる方は、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。

日中に眠いだけだから大したことはないと思われがちですが、心筋梗塞や脳卒中の危険性もある危険な病気です。

1.睡眠時無呼吸症候群について


睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは眠っている時に10秒以上の呼吸停止が1時間に5回以上起こる状態のことです。

呼吸が止まると血液中の酸素濃度が低下し、苦しくなって目が覚めます。

目が覚めている時は呼吸が再開するのですが、その後眠りにつくと再び呼吸が停止してしまいます。

これを眠っている間何度も繰り返すことで日中眠くなるだけでなく、心臓や脳、血管にも大きな負担がかかります。

日中の強い眠気による交通事故や、心筋梗塞・脳卒中による突然死など、命の危険を伴う病気です。

男性では40~60歳代、女性では閉経後に多い病気です。

【参考情報】厚生労働省 e-ヘルスケアネット『睡眠時無呼吸症候群
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-026.html

2.症状 


睡眠時無呼吸症候群の症状には次のようなものがあります。

・いびき
・夜間の頻尿
・熟睡感がない
・日中の強い眠気
・起床時の頭痛
・高血圧

大きないびきの後突然呼吸が止まり、その後急に苦しそうに大きないびきをかく事が多いです。

ご家族が就寝中にこのようないびきをかいていたら要注意です。

呼吸が止まると血液中の酸素濃度が低下し、息苦しくなって何度も起きてしまいます。

これにより、夜間頻尿や日中の強い眠気などの症状が見られます。

日中の強い眠気は仕事に集中できなくなるだけでなく、居眠り運転による事故や労働災害などにも繋がります。

また、睡眠不足により血糖値やコレステロール値が上昇し、生活習慣病が重症化しやすい傾向にあります。

さらに睡眠時の無呼吸状態・低酸素状態を繰り返すことで、心臓や脳、血管に大きな負担がかかり、心筋梗塞や脳卒中など命の危険もある病気です。

降圧剤などを服用しても改善しない「治療抵抗性高血圧」の約80%に睡眠時無呼吸症候群が関与していると言われています。

睡眠不足による眠気だけでなく、脳卒中や心筋梗塞、生活習慣病の潜在的なリスクがある病気です。

【参考文献】❝sleep apnea syndrome❞ by mayo clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/sleep-apnea/symptoms-causes/syc-20377631

3.原因


睡眠時無呼吸症候群の原因には、口や鼻から声帯までの空気の通り道が細くなる「閉塞型(OSA)」、呼吸を調整する脳の機能が低下する「中枢型(CSA)」、これら両方が関係する「混合型」に分けられます。

閉塞性では努力呼吸が見られますが、中枢性では努力呼吸はなくチェーンストークス呼吸という特徴的な呼吸が見られます。

原因としては閉塞型が多く、肥満、顎の骨格によるもの、アデノイドによるもの、睡眠薬やアルコールによるものなどがあります。

中枢性は脳卒中や心不全などがある場合に起こります。

3-1.肥満

肥満には「内臓脂肪型(リンゴ型)」と「皮下脂肪型(洋ナシ型)」の2種類があり、睡眠時無呼吸症候群では内臓脂肪型の場合が多いです。

内臓脂肪型肥満の特徴として、以下のような特徴があります。

・腸の周りの内臓に脂肪が蓄積している
・手足は細く、腹部だけが出ている
・比較的男性に多い

内臓脂肪型肥満の場合のどの周りにも脂肪がつきやすく、睡眠時にのどの緊張が緩むと空気の通りが悪くなります。

腹部に脂肪が蓄積していることで肺の容量が減少し、呼吸に支障が出やすいことも原因となります。

また、肥満が原因で睡眠時無呼吸症候群を発症している場合は糖尿病などの生活習慣病も併発していることが多いです。

【参考情報】日本呼吸器学会『睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020』
https://www.jrs.or.jp/publication/jrs_guidelines/20200730145402.html

3-2.顎の骨格、のどの奥の形によるもの

肥満ではない場合でも、下顎骨が小さかったり口蓋垂が大きい場合は空気の通りが悪くなることがあります。

アジア人は欧米人に比べると下顎が小さく後退しているため、気道が狭くなりやすいと言われています。

3-3.アデノイド

慢性扁桃炎の一種で、咽頭扁桃が肥大したものをアデノイド増殖症といい、単に「アデノイド」と呼ぶこともあります。

咽頭扁桃とは鼻の奥にあるリンパ組織で、ウイルスなどが体内に侵入するのを防ぐ役割があります。

咽頭扁桃が肥大することで空気の通りが悪くなり、睡眠時無呼吸の原因となります。

4歳から10歳くらいの子どもに多く見られ、切除のために手術が行われることもあります。

【参考情報】系統看護学講座 病理学/医学書院
https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/86298

4.検査


問診で睡眠時無呼吸症候群が疑われると、まず簡易検査を行い、1時間に5回以上の無呼吸が見られた場合は精密検査を行います。

これらの検査で原因や重症度を判定し、治療方針を決めていきます。

4-1.問診

いびき、生活習慣、既往歴などの問診の他、ESS(Eqworthの眠気テスト)という項目を用いて、日常生活のどんな場面で・どの程度眠気があるかを詳細に聞き取ります。

いびきなど眠っている間のことは自分ではわからないため、ご家族の同席が望ましいです。

4-2.簡易検査

簡易検査は家で眠っている時にできる簡単なスクリーニングテストです。

手の指や鼻の下にセンサーを付け、気流やいびきから無呼吸の回数を計測することができます。

機械によっては血液中の酸素濃度(SpO2)を計測できるものもあります。

4-3.精密検査(ポリソムノグラフィー)

精密検査は病院に一晩入院して行う検査です。

頭、鼻、顎、手の指、胸腹部にセンサーを付けて行うもので、痛みはありません。

ポリソムノグラフィーでは、脳波、心電図、筋電図などから睡眠の質や無呼吸の原因、覚醒に他の原因がないかなど詳しく調べることができます。

4-4.重症度の判定

睡眠時無呼吸症候群の重症度はAHI(無呼吸低呼吸指数)で判断します。

AHIとは、睡眠中に10秒以上呼吸停止している、もしくは正常の半分以下の呼吸しかない低呼吸の状態が発生する回数のことです。

AHIが5以上の場合に睡眠時無呼吸症候群と診断され、30以上の場合重症と判断されます。

AHIが20以上、つまり1時間に20回以上無呼吸がある人では明らかに生命予後が悪く、8年後の生存率は約63%とも言われています。

【参考情報】『Mortality and apnea index in obstructive sleep apnea. Experience in 385 male patients』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3289839/

5.治療

5-1.生活習慣の見直し

まずは肥満、飲酒、喫煙などの生活習慣を改善することが大切です。

肥満は睡眠時無呼吸症候群の原因になるだけでなく、生活習慣病を悪化させる原因にもなるため減量が求められます。

寝る前に飲酒をするとのどの筋肉が弛緩するため、無呼吸を悪化させる原因になります。

また、睡眠薬を飲んでいる場合ものどの筋肉が弛緩してしまうため、かかりつけ医と相談する必要があります。

喫煙をすると慢性的にのどに炎症が起きている状態になり、むくんで気道を閉塞させる可能性があるため、禁煙も重要です。

5-2.マウスピース

軽症の場合はマウスピースを装着し、舌が落ちないようにすることで無呼吸の改善を図ります。

5-3.CPAP(持続的陽圧呼吸療法)

中等~重症の場合はCPAPを行います。

CPAPとは鼻(口)マスクを装着し、一定量の空気を送り続けることで気道を広げ、閉塞を防ぐ治療法です。

6.おわりに

睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸が止まり酸欠状態になるため、心臓や脳、血管に大きな負担がかかる病気です。

生活習慣病が背景にあることも多く、まずは生活習慣の改善が治療への第一歩となります。

交通事故や突然死など命の危険も伴う病気ですので、気になる症状があれば早めに受診してください。

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