風邪の後に咳だけが残るのはなぜ?妊娠・授乳中のケアと受診の目安
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)
風邪の熱や鼻水はすっかり治まったのに、咳だけがいつまでも続いている。そんな経験はありませんか?
妊娠中・授乳中であれば「薬は飲んでいいの?」「赤ちゃんへの影響は?」と心配が重なることもあるでしょう。
この記事では、安心して取り組めるセルフケア・受診の目安をわかりやすくご説明します。
1. 風邪の後に咳だけ残る「感染後咳嗽」とは

風邪の症状(発熱・鼻水・のどの痛みなど)が落ち着いたあとも、咳だけがしばらく続く状態を「感染後咳嗽(かんせんごがいそう)」と呼びます。
これは、ウイルスに感染したときに起こる気道の炎症が治まりきらず、気管や気管支の粘膜が敏感になったまま残るためです。
この状態は珍しくなく、風邪をひいた後の多くの方が経験していると言われています。
1-1. 咳が残りやすい期間の目安
一般的に咳は3週間以内に自然に回復することが多いとされていますが、長引く場合は「感染後咳嗽」などが関与していることもあります。咳は持続期間によって以下のように分類されます。
・ 3週間以内:急性咳嗽(きゅうせいがいそう)
多くは自然に回復すると言われていますが、2週間以上咳が続く場合は、他の原因 が隠れている可能性もあるため、早めに受診されることをおすすめします。
・ 3〜8週間:遷延性咳嗽(せんえんせいがいそう)
感染後咳嗽が治りきらずに続いているケースのほか、後鼻漏や咳喘息など別の原因 が加わっている可能性も出てくる時期です。
・ 8週間以上:慢性咳嗽(まんせいがいそう)
専門的な検査・治療が必要とされています。
特に、妊娠中・授乳中は免疫やホルモンのバランスが変化しているため、この「咳 だけ残る」期間が長引きやすい傾向があります。
1-2. 妊娠・授乳中に咳が長引きやすい3つの理由
妊娠中・授乳中に咳が長引きやすいのは、体のバランスが大きく変化することが原因と言われています。主な背景として、以下の3つがあげられます。
・免疫バランスの変化
妊娠中は胎児を守るために免疫のしくみが変化します。このため、気道の炎症が治 まるのに時間がかかることがあります。
・鼻炎・後鼻漏(こうびろう)
女性ホルモンの影響で鼻水が増え、のどの奥へ流れ込む「後鼻漏」が咳の原因にな ることがあります。
・咳喘息(せきぜんそく)
風邪をきっかけに気道の炎症が続き、乾いた咳だけが長引く場合があります。
後鼻漏と咳喘息については、次の章でより詳しくご説明します。
2. 鼻炎と後鼻漏・咳喘息について

前章では、妊娠・授乳中に咳が長引く理由として「後鼻漏」と「咳喘息」をご紹介しました。
ここではそれぞれの特徴や、なぜ妊娠・授乳期に起こりやすいのかについて、もう少し詳しくみていきましょう。
2-1. 鼻炎と後鼻漏
妊娠中はエストロゲン(女性ホルモンの一種)などが増加するため、鼻粘膜の血管が広がって鼻づまりや鼻水が出やすくなります。
このような状態は、妊婦さんの約2〜3割にみられるとされています。
鼻水の量が増えると、のどの奥に鼻水が流れ込み後鼻漏が起こりやすくなります。
後鼻漏は、のどを刺激して咳を引き起こすことがあり、特に横になったときや朝起きたときに咳が出やすいのが特徴です。
「風邪の続き」と思っていた咳が、実は鼻炎や後鼻漏によって長引いている場合もあります。
授乳中も、睡眠不足や室内の乾燥、抱っこで前かがみになる姿勢などが重なると、のどや気道への負担が増えることがあります。

【参考情報】『Rhinitis 2020: A Practice Parameter Update』American Academy of Allergy, Asthma & Immunology (AAAAI)
https://www.aaaai.org/Aaaai/media/Media-Library-PDFs/Allergist%20Resources/Statements%20and%20Practice%20Parameters/Rhinitis-2020-A-practice-parameter-update.pdf
2-2. 咳喘息
咳喘息は、ゼーゼー・ヒューヒューといった音を伴わず、乾いた咳だけが続く状態です。
気道の炎症によって引き起こされ、風邪をきっかけに発症することがあります。
夜間や早朝に咳が強くなる傾向があるため、睡眠が大切な妊娠・授乳期にはとても負担になります。
放置すると喘息に進展するリスクもあるため、早めの受診が大切です。
3. 風邪のあとに咳だけ残るときのセルフケア

薬が使いにくい時期だからこそ、日常生活の中でできるセルフケアがとても大切です。ここでは、妊娠中・授乳中でも安心して取り組める方法をご紹介します。
3-1. 室内の加湿と温度管理
乾燥した空気は気道を刺激し、咳を悪化させる原因になります。以下を参考に、室内環境を整えてみましょう。
・ 室内の湿度は40〜60%を目安に保つ
・ 加湿器がない場合は、洗濯物の部屋干しやコップに水を置くだけでも効果あり
・ エアコンの風が直接体に当たらないよう向きを調整する
・ 急な温度変化(外出時など)はマスクやスカーフで気道を保護する
【参考情報】『健康・快適居住環境の指針』東京都保健医療局
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/web_zenbun1
3-2. こまめな水分補給
水分をしっかり取ることで、のどの粘膜が潤い、痰が排出されやすくなります。
妊娠中・授乳中は体の水分需要が増えているため、のどがカラカラになる前に、少量をこまめに飲むように意識して水分を取ることをおすすめします。
コーヒー・紅茶・緑茶などはカフェインが多く含まれるため、できるだけ控えましょう。水・麦茶・白湯など刺激の少ない飲み物を飲むことをおすすめします。
3-3. 姿勢の工夫
後鼻漏による咳は、夜間や就寝時に咳が増える傾向があります。
仰向けに寝ると、鼻水がのどへ流れやすくなるため、就寝時は枕をやや高くして上体を少し起こす姿勢や、横向きで寝ると症状が和らぐ場合があります。
【参考情報】『呼吸器Q&A Q3. 夜間や早朝にせきが出ます。』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q03.html
また、 授乳時の前かがみ姿勢が長時間続くと気道に圧がかかるため、授乳クッションなどを活用して姿勢を整えましょう。
3-4. 刺激となるものを避ける
咳が続いているときは、以下のような刺激を避けることが症状の悪化を防ぎます。
・ タバコの煙(受動喫煙も含む)
・ 香水・芳香剤・消臭スプレーなどの強いにおい
・ ほこりやダニ(カーペット・寝具は定期的に掃除を)
・ エアコンのフィルター(カビやダニがたまりやすいため定期的に掃除を)
【参考情報】『悪化因子の対策 室内環境を見直しましょう』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/control/measures/indoor.html
4. 妊娠中・授乳中に注意したい市販薬

風邪薬・咳止め薬には妊娠中・授乳中に避けた方がよい成分が含まれていることがあります。
ここでは、特に注意が必要な成分と、受診の重要性をご説明します。
4-1. 妊娠中・授乳中に避けるべき市販薬の成分
以下の成分は、妊娠中・授乳中には使用を避けるか、必ず医師・薬剤師に確認してから使用することが必要です。
・イブプロフェン(痛みや熱を抑える成分・解熱鎮痛薬の一種)
「痛み止め」「熱冷まし」として市販薬によく含まれる成分です。特に妊娠後期は赤ちゃんへの影響が心配されるため、なるべく避けましょう。
・ コデイン・ジヒドロコデイン(咳を止める成分)
多くの市販の咳止め薬に入っている成分です。授乳中は母乳を通じて赤ちゃんに影響が出る可能性があるため、使用を控えましょう。
・クロルフェニラミンなどの抗ヒスタミン薬(鼻水・くしゃみを抑える成分)
くしゃみ・鼻水を抑える目的で多くの風邪薬に含まれています。眠気や口の渇きなどが現れやすく、妊娠中・授乳中は注意が必要です。
・メチルエフェドリンなどの鼻づまり改善成分
鼻の通りをよくする目的で配合されることがある成分です。血圧への影響が考えられるため、妊娠中は特に注意が必要です。
妊娠中・授乳中は、市販薬を自己判断で使うことはなるべく控え、気になる症状があればまずかかりつけの医師や薬局の薬剤師さんにご相談ください。
【参考情報】『授乳中の薬の使用について』国立成育医療研究センター
https://www.ncchd.go.jp/kusuri/news_med/druglist.html
4-2. アセトアミノフェンについて
アセトアミノフェン(タイレノールなどに含まれる解熱・鎮痛成分)は、妊娠中でも短期間であれば比較的安全とされています。
ただし、市販の風邪薬は複数の成分が混ざっていることが多いため、成分をよく確認することが大切です。
「これは飲んでも大丈夫?」と思ったら、まずはかかりつけの医師や薬剤師さんに相談してみましょう。
【参考情報】『妊娠中のお薬Q&A』国立成育医療研究センター
https://www.ncchd.go.jp/kusuri/process/qa_ninshin.html
【参考情報】『Medicine and Pregnancy: An Overview』Centers for Disease Control and Prevention (CDC)
https://www.cdc.gov/medicine-and-pregnancy/about/index.html
5. 風邪の後に咳だけ残る場合の受診目安と検査について

セルフケアを続けても咳が改善しない場合や、気になる症状がある場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。
妊娠中・授乳中でも受けられる安全な検査がありますので、必要以上に心配せず、ためらわずに相談してください。
5-1. 受診を急いだ方がよいサイン
以下のような症状がある場合は、できるだけ早めに受診しましょう。
・ 咳が2週間以上続いている
・ 発熱が再び出てきた
・ 息苦しさを感じる・胸が痛い
・ 夜間の咳がひどく眠れない日が続いている
・ 血が混じった痰(血痰)が出た
・ 体重が急に減っている
特に、息苦しさや血痰、発熱が再び出てきた場合は、肺炎や気管支炎、咳喘息などの可能性もあるため、放置せずに受診することが重要です。
5-2. 妊娠中・授乳中に受けられる検査
「病院に行っても、検査や薬は大丈夫なの?」と心配される方も多いと思います。
以下の検査は、一般的に妊娠中・授乳中でも安全に行われています。
・問診・聴診(ちょうしん)
症状の経過や生活状況を詳しく聞き取り、聴診器で肺の音を確認します。
薬も放射線も使わないため安心して受けられます。
・呼吸機能検査(スパイロメトリー)
息を吹き込む検査で、気道の状態(息が通りやすいかどうか)を確認します。
薬や放射線は使わないため、妊娠中でも行えます。
・血液検査・鼻腔・咽頭ぬぐい液検査(のどや鼻の粘膜を綿棒でふき取る検査)
アレルギーや感染の有無を調べます。
いずれも妊娠・授乳中に問題なく実施できます。受診する際は、「妊娠中(または授乳中)です」と必ず医師に伝えてください。
それにより、薬の処方や検査方法が適切に調整されます。
6. おわりに
妊娠中・授乳中に「咳だけが残る」のは、気道の過敏性・後鼻漏・咳喘息などが原因であることが多く、単純な風邪の続きではない場合もあります。
薬が使いにくい時期だからこそ、加湿・水分補給・姿勢の工夫など日常のセルフケアが大切です。
妊娠中・授乳中でも安心して受けられる検査や治療がありますので、ひとりで悩まず、咳が続く・息苦しさがあるなどのサインがあれば、早めに医療機関を受診しましょう。



