診療時間
ご予約・ご相談はこちらから

吸入で治らない喘息に!バイオ製剤やジェネリックなど最新の薬を解説

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

「毎日吸入しているのにゼーゼーする」と悩んでいませんか?

喘息やCOPDの治療では、標準的な治療だけでは改善しない方もいます。また「薬代の負担」も切実な悩みです。

本記事では、次のステップの「バイオ製剤」や家計に優しい「ジェネリック」について、専門的な内容を噛み砕いて分かりやすく解説します。

1. 吸入薬でも改善しないとき、呼吸器内科ではどんな薬を検討するか


呼吸器内科を受診される患者様の多くは、まず「吸入ステロイド薬」や「気管支拡張薬」による治療を開始します。

しかし、正しく吸入を続けていても症状が改善しない「難治性喘息」の状態になることがあります。

1-1. なぜ吸入薬だけで治らないことがあるのか

喘息の正体は、空気の通り道(気道)で起きている「慢性的な炎症」です。

多くの場合は一般的な吸入薬でこの炎症を抑え込めますが、炎症のタイプによっては吸入ステロイドが効きにくい場合があります。

これは「ステロイド抵抗性」と呼ばれる状態です。

また、気道の炎症が非常に強く、標準的な量では火消しが追いつかないケースも少なくありません。

◆『喘息とはどんな病気か?』について>>

1-2. 次のステップ「生物学的製剤」という選択

吸入薬を最大量使っても症状が残る場合、次に検討されるのが「生物学的製剤(バイオ製剤)」です。

これは、炎症を引き起こす特定の原因物質をピンポイントでブロックする注射薬です。

これまでの治療が「火事全体に水をかける」イメージだとすれば、バイオ製剤は「火元を狙い撃ちする」イメージです。

これまでは主に難治性喘息の治療に使われてきましたが、最近では一部のバイオ製剤が重症のCOPD(慢性閉塞性肺疾患)にも適応拡大(※)されるなど、これまで吸入薬だけでは症状が取りきれなかった方にとっての新しい希望となっています。

※2024年、日本でも「デュピクセント」が既存治療でコントロール不十分なCOPDの治療薬として承認されました。

◆『COPD(慢性閉塞性肺疾患)』について>>

1-3. 経口ステロイド薬の減量を目指して

症状が重いとき、飲み薬のステロイド(経口ステロイド)を長く使い続けることがあります。

しかし、飲み薬は全身への副作用(糖尿病、骨粗鬆症、白内障など)が心配です。

バイオ製剤を導入することで、飲み薬のステロイドを減らしたり、中止したりできる可能性が高まります。

◆『喘息治療のゴール』について>>

2. ジェネリック薬とバイオ製剤の違いを知ろう


薬の種類が増える中で、「ジェネリック」と「バイオ製剤」が混同されることがありますが、これらは全く別物です。

それぞれの特徴を整理してみましょう。

2-1. ジェネリック医薬品(後発医薬品)の役割

ジェネリック医薬品とは、新薬(先発医薬品)の特許が切れた後に、同じ有効成分を使って作られる薬です。

開発費が抑えられているため、お薬代を安くできるのが最大のメリットです。

吸入薬の世界でも、最近ではアドエアやシムビコートといった代表的な薬にジェネリックが登場しており、日本国内の医療機関でも広く処方されています。

処方箋やお薬手帳には、以下のような名前で記載されます。

・「ブデホル」(シムビコートのジェネリック)
・「フルチカゾン/サルメテロール」(アドエアのジェネリック)

これらは先発品と比べてお薬代が安くなる一方で、吸入器(デバイス)の形や吸い方が変わる場合があります。

※ご注意:インターネットで検索すると「アドエアに後発品(ジェネリック)はない」と表示されることがありますが、これは「吸入器の形が先発品と異なる」という専門的な分類上の理由によるものです。実際には同成分の安価なお薬が流通しています。
家計の負担を軽くしつつ、しっかりと治療効果を出すためには、切り替え時に医師や薬剤師から改めて丁寧な吸入指導を受けることが大切です。

【参考情報】『後発医薬品(ジェネリック医薬品)及びバイオ後続品(バイオシミラー)の使用促進について』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kouhatu-iyaku/index.html

2-2. バイオ製剤(先行バイオ医薬品)とは

バイオ製剤は、化学合成で作られる一般的な薬とは異なり、微生物や細胞などの「生物」の力を借りて作られる非常に複雑で巨大なタンパク質製剤です。

喘息の原因となる特定の分子(IL-5やIgE、TSLPなど)に直接作用するため、非常に高い効果が期待できます。その分、製造コストが高く、お薬代も高額になる傾向があります。

2-3. バイオシミラー(バイオ後続品)について

バイオ製剤にも、特許が切れた後に登場する「バイオシミラー」という選択肢があります。

バイオ製剤は構造が非常に複雑なため、一般的なジェネリックのように全く同じものを作るのは困難です。

そのため、先行品と「同等・同質」であることが証明された製品が承認される仕組みです。呼吸器領域ではまだ選択肢が限られていますが、今後の普及が期待されています。

【参考情報】『In brief: Biologics and biosimilars』National Library of Medicine
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK499546/

3. 生物学的製剤の代表例と導入の目安


重症喘息に使われるバイオ製剤にはいくつか種類があり、患者様の症状のタイプ(血液検査の結果など)によって使い分けられます。

3-1. テゼスパイア(一般名:テゼペルマブ)

テゼスパイアは、気道の炎症の最上流にある物質(TSLP)をブロックする新しいタイプの薬です。

炎症のタイプを問わず幅広く効果を発揮しやすいのが特徴で、多くの重症喘息患者様にとって希望の選択肢となっています。

3-2. デュピクセント(一般名:デュピルマブ)

デュピクセントは、アレルギー性の炎症に関わる物質(IL-4とIL-13)を抑える薬です。

喘息だけでなく、アトピー性皮膚炎や鼻茸(はなたけ・鼻ポリープ)を伴う副鼻腔炎を合併している方にも非常に有効で、これら複数の病気を同時に治療できるメリットがあります。

さらに、2024年からはこれまでの治療で十分に症状が抑えられない「重症のCOPD」の治療にも使えるようになりました。

※血中の好酸球数値が高いタイプの方が対象となります。

【参考情報】『患者向医薬品ガイド デュピクセント皮下注300mg/200mg』医薬品医療機器総合機構
https://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ph/GUI/780069_4490405G1024_1_01G.pdf

3-3. 【導入の基準】どのような人が対象か

バイオ製剤は、誰でもすぐに使えるわけではありません。一般的には、以下の条件を満たす場合に検討されます。

・吸入ステロイド薬(高用量)を使い、他の薬を併用しても症状が安定しない

・年に数回、急激な症状悪化(発作)が起きている

・血液検査で特定の数値(好酸球数やIgE値)が高い、または呼気一酸化窒素(FeNO)が高い

4. 治療費と助成制度の活用方法


バイオ製剤の最大の懸念点は「費用」です。3割負担の方でも、1回の注射で数万円かかることがあります。

しかし、日本の公的医療保険制度を活用すれば、実際の支払額を抑えることができます。

4-1. 高額療養費制度の活用

医療機関や薬局の窓口で支払う額が、1ヶ月(1日から末日まで)で一定の金額を超えた場合、その超えた分が払い戻される制度です。

上限額は年収によって決まります。あらかじめ「限度額適用認定証」を申請しておけば、窓口での支払いを最初から上限額までに抑えることが可能です。

【参考情報】『高額な外来診療を受ける皆さまへ』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/kougaku_gairai/index.html

4-2. 付加給付制度(健康保険組合独自の制度)

お勤め先の健康保険組合によっては、高額療養費に上乗せして「付加給付」という独自の助成を行っている場合があります。

窓口負担が2万円や2万5千円程度で済むケースもあり、非常に強力なサポートです。ご自身の健康保険組合の規約を確認してみる価値は十分にあります。

4-3. 難病指定や自治体の助成

喘息自体は難病(指定難病)には含まれませんが、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)などの特定の基礎疾患がある場合は、難病医療費助成の対象となることがあります。

また、以前は多くの自治体で大気汚染に関連する医療費助成制度がありましたが、現在は多くの地域(横浜市など)で新規の認定受付を終了しています。

すでに「公害医療手帳」などをお持ちの方は継続して助成を受けられる場合がありますので、お持ちの方は忘れずに受付でご提示ください。

なお、お子様の場合は、各自治体の「小児医療費助成」により、バイオ製剤のような高額な治療も、窓口での支払いが無料、あるいは1回数百円程度の少額の負担で受けられるケースがほとんどです。

これらに加え、症状が非常に重い場合は、国の「小児慢性特定疾病 医療費助成制度」が活用できる可能性もあります。

どちらの制度が活用できるかは、お子様の年齢や症状によって異なります。

まずは専門医にお子様の症状が助成の対象となる状態(重症度など)かどうかを相談し、その上で詳しい申請方法などをお住まいの市区町村の窓口へ確認するのがスムーズです。

【参考情報】『重症ぜん息でも症状なしをめざせる時代に』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/58/medical/

5. 切り替え時の注意点と経過観察のポイント


新しい薬、特にバイオ製剤に切り替える際は、これまでの治療とは異なる注意点があります。

5-1. 即効性ではなく「継続」で効果を見る

バイオ製剤は、1回の注射で魔法のようにすべての症状が消えるわけではありません。

多くの薬では、効果を判断するまでに数ヶ月(3ヶ月〜半年程度)の継続が必要です。焦らず、じっくりと体調の変化を見守ることが大切です。

5-2. 自己注射の選択肢

バイオ製剤の中には、自宅で自分で注射できる「自己注射」が可能なものもあります。

通院の頻度を減らせるメリットがありますが、正しく打てるようになるためのトレーニングが必要です。

最初は病院で看護師から指導を受け、自信がついてから移行するのが一般的です。

5-3. 副作用への理解

バイオ製剤の主な副作用には、注射した部位の腫れや赤み、かゆみなどがあります。

稀に重いアレルギー反応(アナフィラキシー)が起きる可能性もあるため、特に初回の投与は医療機関で慎重に行い、投与後もしばらく様子を観察します。

気になる症状があれば、すぐに医師に相談しましょう。

6. おわりに

呼吸器の病気は、長く付き合っていく必要があるからこそ、「症状が良くならない」「お金が心配」といった不安を抱え込まないことが大切です。

現在、喘息治療は目覚ましく進歩しており、これまでは諦めていた息苦しさも、新しい薬(バイオ製剤)や適切な制度の活用で劇的に改善する可能性があります。

「今の吸入薬のままでいいのかな?」と少しでも感じたら、それは治療を見直す良いタイミングかもしれません。

専門医と一緒に、あなたのライフスタイルや経済的な状況に最適な治療法を見つけていきましょう。

記事のカテゴリー

診療時間
アクセス
メディア出演・原稿のご依頼