1か月咳が止まらない原因とは?風邪だと思って放置をしないようにしよう!
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)
「風邪をひいてから一か月経つのに、まだ咳が止まらない」「薬を飲んでも良くならない」とお悩みではありませんか?
実は、一か月以上続く咳は単なる風邪ではない可能性が高く、放置すると重篤な状態に進行することもあります。
1. 一か月以上続く咳は風邪ではありません

一般的に風邪による咳は2~3週間でおさまるとされています。
一か月以上続く咳は医学的に「慢性咳嗽(まんせいがいそう)」と呼ばれ、風邪以外の様々な病気が原因となっています。
1-1. 慢性咳嗽とは何か
慢性咳嗽とは、8週間以上続く咳のことを指します。
感染症が原因である可能性は低く、咳喘息、後鼻漏、胃食道逆流症などの非感染性疾患が主な原因となります。
◆『2週間続く咳の原因を探る!あなたの咳はただの風邪?それとも…?』>>
【参考情報】『からせき(たんのないせき)が3週間以上続きます』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q01.html
【参考情報】”Chronic Cough” by National Center for Biotechnology Information (NCBI), U.S. National Library of Medicine (NIH)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK430791/
1-2. 急性咳嗽と慢性咳嗽の違い
急性咳嗽(3週間未満)の多くはウイルス性の風邪が原因ですが、慢性咳嗽では気道の慢性的な炎症や過敏性が関与しています。
症状の持続期間により治療方針が大きく異なるため、正確な期間の把握が重要です。
2. 1か月以上続く咳の主な原因疾患

長引く咳には様々な原因があります。ここでは代表的な疾患について詳しく解説します。
2-1. 咳喘息(せきぜんそく)
咳喘息は、喘息と同様にアレルギーがある人に多い病気で、乾いた咳が特徴です。「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音(喘鳴)や呼吸困難はありません。
しかし、放置すると典型的な喘息に移行する確率が高くなります。
特に夜間から早朝にかけて症状が出やすく、運動や冷たい空気、タバコの煙などが引き金となります。
◆『運動中に咳が止まらない理由とは?室内運動でも起こる咳喘息・気道過敏性の原因と対策を解説』>>
【参考情報】『「もしかしてぜん息?」と思っている方へ』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/case/check.html
2-2. 感染後咳嗽(かんせんごがいそう)
風邪やインフルエンザなどのウイルス感染後に、感染自体は治癒したものの気道が過敏な状態が継続し、数週間から数か月間咳が続く状態です。
一部のウイルス感染では、この状態が長期間持続することがあります。
2-3. 後鼻漏(こうびろう)による上気道咳症候群
アレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎が原因で、鼻汁がのどの後ろに流れる状態を後鼻漏といいます。これが咳の引き金となり、長引く咳の原因として少なくありません。
特に横になると症状が悪化しやすく、鼻閉感や痰の絡みを伴うことが多いです。
3. 咳のタイプ別の見分け方

咳には大きく分けて「乾いた咳」と「痰を伴う咳」の2つのタイプがあります。
それぞれの特徴を理解することで、原因疾患を推測することができます。
3-1. 乾いた咳(乾性咳嗽)の特徴
痰を伴わない「コンコン」「ケンケン」という軽い音の咳で、以下の疾患が考えられます
・咳喘息:最も頻度の高い慢性咳嗽の原因
・アトピー咳嗽:アレルギー体質の方に多い
・胃食道逆流症(GERD):胃酸の逆流が刺激となる
・感染後咳嗽:風邪の後に気道過敏性が持続
乾いた咳は気道の過敏性や炎症が原因となることが多く、夜間から早朝にかけて悪化しやすい特徴があります。
冷たい空気、運動、会話などで誘発され、のどのイガイガ感や胸部圧迫感を伴うこともあります。
【参考情報】”Chronic dry cough: Diagnostic and management approaches” by U.S. National Library of Medicine (NIH)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4298918/
3-2. 痰を伴う咳(湿性咳嗽)の特徴
「ゴホゴホ」「ゲホゲホ」という痰の絡んだ濁った音の咳で、以下の疾患が考えられます
・副鼻腔気管支症候群:鼻と気管支の同時炎症
・慢性気管支炎:主に喫煙が原因
・気管支拡張症:気管支が不可逆的に拡張
・COPD(慢性閉塞性肺疾患):タバコが主な原因
【参考情報】『慢性閉塞性肺疾患(COPD)』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/04/dl/s0420-6j.pdf
湿性咳嗽では、痰の色も診断の手がかりとなります。
透明・白色の痰はウイルス性、黄色・黄緑色は細菌感染、血が混じる場合は肺結核や肺がんの可能性があり、早急な検査が必要です。
3-3. 咳の音以外の重要な観察ポイント
発生時間帯による分類
・朝方の咳:COPD、慢性気管支炎、副鼻腔気管支症候群
・夜間の咳:咳喘息、心不全、胃食道逆流症
・運動時の咳:咳喘息、運動誘発喘息
季節性による分類
・春・秋に悪化:咳喘息、アレルギー性疾患
・冬季に悪化:感染後咳嗽、COPD
・梅雨時期に悪化:カビアレルギー、喘息
咳の持続パターン
・発作性(短時間で激しい):咳喘息、百日咳
・持続性(だらだら続く):慢性気管支炎、COPD
・間欠性(時々出る):胃食道逆流症、後鼻漏
◆『朝に咳が止まらないのはタバコのせい?COPDの初期症状を解説』>>
3-4. 家庭でできる咳の観察方法
正確な診断のために、以下の点を記録しておくと医師の診断に役立ちます。
記録すべき項目
・咳の音:コンコン・ゴホゴホなど
・咳の回数:1日何回、何分間続くか
・発生時間:朝・昼・夜のどの時間帯か
・誘因:何をした時に出やすいか
・随伴症状:息切れ、痰、のどの痛みなど
・改善要因:何をすると楽になるか
この観察記録は、医師が適切な診断を下すために非常に重要な情報となります。
4. その他の重要な原因疾患

ここまで咳喘息や後鼻漏などの代表的な原因を見てきましたが、長引く咳にはさらに他の重要な原因疾患があります。
特に胃腸の病気や副鼻腔の炎症、薬の副作用なども咳の原因となることがあり、見逃されやすいため注意が必要です。
4-1. 胃食道逆流症(GERD)
胃の内容物が食道に逆流することで起こる病気で、胸やけや食道炎のほか、慢性の咳の原因にもなります。
特に食後や就寝時に症状が悪化しやすく、酸っぱい水が上がってくる感覚(呑酸)を伴うことがあります。
【参考情報】『患者さんとご家族のための胃食道逆流症(GERD)ガイド』日本消化器病学会
https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/disease/pdf/gerd_2023.pdf
4-2. 副鼻腔気管支症候群
慢性副鼻腔炎と気管支炎が同時に存在する状態で、好中球という白血球が副鼻腔や気管支で過剰に炎症を引き起こします。
症状としては咳に加えて、膿性の鼻汁、痰、後鼻漏などがあります。
【参考情報】“Sinusitis” by National Library of Medicine, NIH
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK279485/
4-3. 薬剤性咳嗽
高血圧の治療薬として使用されるACE阻害薬によって、長引く咳が起こることがあります。
この薬を使用していて咳が長引く場合は、医師に相談することで、多くの場合他の薬に変更することで咳がおさまります。
5. 放置の危険性と医療機関での対応

一か月以上続く咳を放置すると、様々なリスクが生じます。
しかし、適切な診断と治療により、多くの場合症状の改善が期待できます。
5-1. 放置することで生じるリスク
生活の質(QOL)の著しい低下
慢性的な咳は睡眠障害を引き起こし、日中の集中力低下や疲労感の原因となります。また、咳込みによる尿失禁や、人前での咳による社会生活への支障も生じます。
身体的合併症のリスク
激しい咳により以下のような合併症が起こる可能性があります
・肋骨の疲労骨折(特に更年期女性)
・腹圧性尿失禁
・睡眠時無呼吸症候群の悪化
・頭痛や胸痛
◆『咳が続くと肋骨が折れる?更年期女性は要注意の「咳と骨折リスク」について』>>
病気の進行と重篤化
咳喘息を適切に治療しないと典型的な喘息に移行し、重篤な発作を起こすリスクが高まります。
また、基礎疾患の進行により、治療が困難になる場合もあります。
◆『咳が止まらない…食べ物の味がしない…それは病気のサインかもしれません』>>
【参考情報】『長引くせきの原因はなに?』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/42/feature/feature02.html
5-2. 医療機関での検査と診断
長引く咳の原因を特定するために、医療機関では段階的に検査を行います。
基本的な検査
問診では症状の詳細(咳の性質、持続期間、悪化要因など)を詳しく聞き取ります。
胸部X線検査で肺結核や間質性肺炎、肺がんなどの重篤な疾患を除外します。
専門的な検査
・呼吸機能検査:気管支の狭窄や可逆性を評価
・呼気一酸化窒素(FeNO)検査:気道炎症の程度を測定
・血液検査:アレルギー体質や炎症反応を確認
・胸部CT検査:詳細な肺の構造を評価
5-3. 原因に応じた治療方針
原因疾患に応じて以下のような治療を行います。
・咳喘息:吸入ステロイド薬を中心とした治療
・後鼻漏:抗ヒスタミン薬や鼻噴霧ステロイド薬
・胃食道逆流症(GERD):プロトンポンプ阻害薬による胃酸抑制
・副鼻腔気管支症候群:マクロライド系抗菌薬の長期投与
治療的診断として、疑われる疾患に対する治療薬を処方し、効果を確認することもあります。
適切な診断と治療により、多くの場合症状の改善が期待できるため、長引く咳でお悩みの方は早めに呼吸器内科を受診することをお勧めします。
6. まとめ
一か月以上続く咳は単なる風邪ではなく、様々な疾患が隠れている可能性があります。
咳喘息、後鼻漏、胃食道逆流症などが主な原因となり、放置すると生活の質の低下や重篤な合併症を引き起こすリスクがあります。
適切な診断と治療により、多くの場合症状の改善が期待できるため、長引く咳でお悩みの方は早めに呼吸器内科を受診することをお勧めします。
早期発見・早期治療により、健康な日常生活を取り戻すことができます。



