深呼吸をすると咳がでる!考えられる病気
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

深呼吸をした際に咳が出る現象は、多くの方が経験する症状です。
深呼吸は通常、リラックス効果や体調改善をもたらすものですが、咳を誘発するようであれば何らかの健康問題が隠れている可能性があります。
適切な対応方法を知ることで、健康管理に役立てることが可能です。
この記事では、深呼吸時に咳が出る原因となる可能性のある病気やその対処法についてご説明いたします。
1.深呼吸で咳がでる原因は?
深呼吸時に咳が出る原因はさまざまですが、以下のような病気が関係している可能性があります。それぞれの特徴や注意点を詳しく見ていきましょう。
1-1.COPD(慢性閉塞性肺疾患)
COPDは、肺の炎症によって気道が狭くなり、息苦しさや咳などの症状が現れる病気です。主に喫煙者や喫煙歴のある方に多く見られます。
・症状
息切れ(とくに運動時に顕著)
慢性的な咳(朝方に多い)
痰(透明~黄色や緑色)
ゼイゼイという呼吸音
胸部の圧迫感
・原因
長年の喫煙(主な原因)
大気汚染物質の長期吸入
職業上の粉塵や化学物質への暴露
遺伝的要因(まれ)
・注意点
症状が進行すると安静時にも息苦しさを感じるようになり、日常生活に支障をきたします。
合併症として心臓病や肺がんのリスクが高まるとされています。そのため、早期発見・早期治療が重要です。
COPDの治療と予防において、最も重要なのは禁煙です。喫煙は肺の組織を破壊し、COPDの進行を加速させます。
ご自身一人で禁煙が難しい場合は、ためらわずに禁煙外来を受診しましょう。また、COPDの治療には以下のような方法があります。
1. 薬物療法:気管支拡張薬や抗炎症薬の使用
2. 呼吸リハビリテーション:呼吸法の改善や運動療法
3. 酸素療法:重症の場合に行われる
4. 生活習慣の改善:適度な運動、バランスの良い食事
【参考文献】”COPD” byMayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/copd/symptoms-causes/syc-20353679
1-2.慢性咳嗽(まんせいがいそう)
慢性咳嗽とは、8週間以上続く咳のことを指し、感染症以外の疾患が原因となることが多くあります。
・主な原因疾患
咳喘息
アトピー咳嗽
胃食道逆流症
COPD
後鼻漏症候群
気管支拡張症
・症状
咳のみが長期間続き、「ヒューヒュー」「ゼーゼー」といった喘鳴や呼吸困難は伴わないことが多いです。夜間や早朝に悪化する特徴があります。
咳の性質(乾いた咳か、痰を伴う咳か)は原因疾患によって異なります。
・注意点
気道への慢性的な刺激やアレルギー反応による炎症が主な原因です。ただし、原因が特定できない場合もあります(特発性慢性咳嗽)。
長引く咳は体力を消耗し、生活の質を著しく低下させる可能性があると言えます。
慢性咳嗽の診断と治療は以下のようなステップです。
1. 詳細な問診:症状の経過、生活環境、喫煙歴などの聴取
2. 身体診察:聴診や打診による肺の状態確認
3. 検査:胸部X線、血液検査、呼吸機能検査など
・原因疾患に応じた治療
咳喘息:吸入ステロイド薬
胃食道逆流症:制酸薬、生活習慣改善
後鼻漏:抗ヒスタミン薬、鼻腔洗浄
また、以下のような生活上の工夫も症状軽減に役立つ場合があります。
・十分な水分摂取:喉の乾燥を防ぎ、粘液を薄める
・加湿:乾燥による喉の刺激を軽減
・禁煙:喫煙は咳を悪化させる主な要因
・レルゲンの回避:ハウスダストや花粉などが原因の場合
1-3.喉頭アレルギー
喉頭アレルギーは喉頭部でアレルギー反応が起こり、咳や違和感につながる症状です。比較的まれな疾患ですが、深呼吸時の咳の原因となることがあります。
・症状
喉のかゆみ
乾燥感
刺激による咳
声のかすれ
喉の違和感
・原因
花粉
ハウスダスト
ペットの毛
食物アレルゲン(まれ)
・注意点
アレルゲンへの暴露を避けることが重要です。症状が長引く場合、声帯や喉頭に炎症が起こる可能性があります。
また、ほかのアレルギー疾患(アレルギー性鼻炎など)を併発していることがあります。
喉頭アレルギーの診断と治療には以下のような方法があります。
・問診:症状の詳細、アレルギー歴の確認
・喉頭内視鏡検査:喉頭の状態を直接観察
・アレルギー検査:血液検査や皮膚プリックテストによるアレルゲンの特定
・治療
抗ヒスタミン薬:アレルギー症状の軽減
局所ステロイド薬:喉頭の炎症を抑える
免疫療法:長期的なアレルギー反応の軽減を目指す
また、日常生活での対策も重要です。
・アレルゲンの回避:原因となる物質を特定し、接触を避ける
・加湿:喉の乾燥を防ぐ
・十分な水分摂取:喉を潤す
・マスクの着用:外出時にアレルゲンの吸入を減らす
適切な抗ヒスタミン薬や環境改善によって症状を軽減できることが多いですが、自己判断での薬の使用は避け、医師の指導のもとで治療を行うことが大切です。
1-4.喘息
喘息は気道が過敏になり炎症を起こす疾患であり、お子さまから大人の方まで幅広い年代で見られます。深呼吸時の咳は、喘息の症状のひとつです。
・症状
発作的な咳(特に夜間や早朝に悪化)
ゼイゼイ、ヒューヒューという喘鳴音
息苦しさ
胸部の圧迫感
運動時の息切れ
・原因
アレルゲン(ハウスダスト、花粉など)
大気汚染物質
寒冷刺激
運動
ストレス
感染症
・注意点
治療を怠ると発作が繰り返され、さらに悪化する可能性があります。また、重症化すると日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。
一方で、適切な治療と自己管理で症状をコントロールできることが多いです。
喘息の診断と治療には以下のようなステップがあります。
1. 問診:症状の詳細、家族歴、環境因子の確認
2. 身体診察:聴診による喘鳴の確認
3. 肺機能検査:スパイロメトリーによる気道狭窄の評価
4. アレルギー検査:原因アレルゲンの特定
・治療
長期管理薬:吸入ステロイド薬、長時間作用性β2刺激薬など
発作治療薬:短時間作用性β2刺激薬
生物学的製剤:重症例に対して使用
喘息では治療において自己管理も重要なひとつです。
・ピークフローメーターによる日々の肺機能チェック
・症状日記をつけ、悪化のサインを早期に発見
・アレルゲンの回避
・規則正しい生活とストレス管理
・禁煙(喫煙者の方の場合)
喘息は適切な治療と環境管理によって発作頻度を抑えることが可能です。
【参考文献】”Asthma” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/asthma/symptoms-causes/syc-20369653
1-5.マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマ肺炎は細菌感染による肺炎であり、とくに若い世代に多く見られます。「歩く肺炎」とも呼ばれ、初期症状が比較的軽いのが特徴です。
・症状
長引く乾いた咳(特徴的)
高熱(場合によって)
倦怠感
頭痛
軽度の息切れ
・原因
マイコプラズマ・ニューモニエ菌の感染
・注意点
軽症の場合が多いですが、適切な治療を受けないと咳が止まらないことがあります。
感染力が強く、家族内や集団生活での感染拡大に注意が必要です。まれに重症化し、呼吸不全などの合併症を引き起こす可能性があります。
マイコプラズマ肺炎の診断と治療には以下のような方法があります。
1. 問診:症状の経過、周囲の感染状況の確認
2. 身体診察:聴診による肺音の確認
3. 検査
・胸部X線検査:肺炎像の確認
・血液検査:炎症マーカーの上昇、マイコプラズマ抗体
・PCR検査:マイコプラズマ菌の遺伝子検出
4. 治療
・抗菌薬療法:マクロライド系抗生物質が主に使用されます
・対症療法:解熱鎮痛薬、咳止めなど
・マイコプラズマ肺炎の自己管理と注意点
・十分な休養:体力の回復を促進
・水分補給:脱水予防と痰の排出を助ける
・禁煙:喫煙は症状を悪化させる可能性がある
・手洗い・うがい:感染拡大防止
・マスク着用:他者への感染予防
早期診断と適切な抗生物質治療によって、多くの場合2〜3週間程度で回復します。
一方で、咳などの症状が長引くことがあるため、医師の指示に従い、十分な療養期間を設けることが大切です。
また、マイコプラズマ肺炎は再感染の可能性もあるため、一度かかったからといって油断せず、日頃から感染予防に努めましょう。
1-6.肺がん
肺がんは深刻な疾患であり、初期段階ではほとんど自覚症状がありません。しかし進行すると咳や血痰などの症状が現れ、深呼吸時の咳も肺がんの症状のひとつとなる可能性があります。
・症状
長期間続く咳
血痰
胸痛
息切れ
体重減少
倦怠感
・原因
喫煙(最大のリスク因子)
受動喫煙
大気汚染
職業上の有害物質への暴露(アスベストなど)
遺伝的要因
・注意点
早期発見・早期治療が非常に重要です。喫煙者や喫煙歴のある方は、とくにリスクが高くなります。
また、症状が現れた時には既に進行している可能性も否定できません。
肺がんの診断と治療には以下のような段階があります。
1. 問診:症状の経過、喫煙歴、職業歴の確認
2. 身体診察:聴診、触診による異常の確認
3. 画像検査
・胸部X線検査
・CT検査:より詳細な肺の状態確認
・PET-CT:がんの広がりや転移の確認
・生検:組織や細胞を採取し、顕微鏡で確認
・治療
手術:早期がんの場合に主に選択
放射線療法:局所的な治療
化学療法:全身的な治療
分子標的薬:特定の遺伝子変異を持つがんに対して使用
免疫療法:体の免疫システムを活性化させてがんと戦う
肺がんの予防と早期発見のためには以下のようなことを心がけましょう。
・禁煙:最も効果的な予防法
・定期的な健康診断:胸部X線検査を含む
・バランスの取れた食事:野菜や果物を多く摂取
・適度な運動:全身の健康維持
・職業上の有害物質への対策:適切な防護具の使用
肺がんは早期発見が難しい疾患だとされていますが、定期的な検診と医師への相談によって早期発見につながる可能性が高まります。
とくに、長引く咳や血痰、急激な体重減少などの症状がある場合は、すぐに専門医の診察を受けましょう。
また、喫煙者や喫煙歴のある方、職業上で有害物質に暴露する可能性のある方は、より注意深くご自身の健康状態を観察し、定期的な検診を受けることが重要です。
【参考文献】”Lung Cancer” byCleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/4375-lung-cancer
2.深呼吸時に咳がでたらどうすればいいの?
深呼吸をすると咳が出る場合、その原因や重症度によって適切な対処法が異なります。
ここからは、一般的な対処法と、医療機関を受診すべきタイミングについて、ご説明しましょう。
まず、喉の刺激を和らげるためには、温かい飲み物が効果的です。カモミールティーやジンジャーティー、はちみつレモン水、温かい水などは、喉を潤して刺激を和らげてくれます。
水分補給をしっかり行うことで粘液が薄まり、咳も和らぎやすくなります。
体勢を工夫することも重要です。
深く息を吸うことで咳が誘発される場合、半座位(上半身を45度程度起こした状態)や横向きで寝る、枕を高くして寝るといった姿勢が呼吸を楽にし、咳の頻度を減らすのに役立ちます。
また、空気の乾燥も咳を悪化させる原因になるため、加湿器を使って室内の湿度を40〜60%程度に保つことが大切です。
乾燥した空気は気道を刺激しやすくなるため、適度な湿度を維持するだけで咳が軽減することがあります。
市販薬の使用も選択肢のひとつです。
咳を鎮める鎮咳薬や痰を出しやすくする去痰薬、咳や鼻水、発熱などを総合的に抑える感冒薬などが市販されています。ただし、使用する際は必ず用法・用量を守り、効果が見られない場合は無理に使い続けず医師に相談しましょう。
呼吸法の工夫も効果的です。
ゆっくりと鼻から吸って口から吐く、腹式呼吸を意識する、吸う時間よりも吐く時間を長くするなど、呼吸をコントロールすることで気道への刺激が和らぎ、咳が出にくくなります。
さらに、環境を整えることも忘れてはいけません。
喫煙している場合は禁煙を心がける、空気清浄機を使用してアレルゲンや刺激物を減らす、こまめに換気を行うなどの工夫が咳を引き起こす原因を取り除くのに役立ちます。
しかし、これらの対処法を試しても改善が見られない場合や、症状が悪化する場合は早めに医療機関への受診を検討しましょう。
3.深呼吸はどんな効果がある?
深呼吸はただ空気を吸って吐くだけの単純な動作ではありません。
正しく行えば、心とからだに多くの良い影響をもたらします。ここでは、深呼吸の効果と正しい方法についてご説明します。
まず、深呼吸にはリラックス効果があります。深く息を吸って吐くことで副交感神経が刺激され、ストレスホルモンの分泌が抑えられます。これにより心拍数が落ち着き、不安や緊張が和らぎます。呼吸に集中することで精神も安定し、心が軽くなる感覚を得られるでしょう。
姿勢も自然に整います。深く吸い込むことで胸が開き、背筋が伸びます。
正しい姿勢で呼吸すると肺の容量が最大限に広がり、より多くの酸素を体に取り込めます。これにより血圧や脈拍が安定し、からだ全体のリズムが整います。
また、酸素供給が増えることで代謝も活発になります。細胞に十分な酸素が届くことでエネルギー生産が促され回復力が高まると言えるでしょう。
さらに、横隔膜がしっかり動くことでリンパの流れが良くなり、免疫機能も強化されます。ストレスが軽減されることで免疫力が上がる効果も期待できます。
消化機能の改善にもつながると言えます。
深呼吸で腹部が動くことで腸の動きが活発になり、消化器への血流も増加し、結果として消化がスムーズになり便通も整いやすくなります。
深呼吸は自律神経のバランスも整えます。交感神経と副交感神経が調和することで、体内のリズムが正常化し、さまざまな不調が改善される可能性があります。
このように、日常的に深呼吸を意識するだけで心身の安定と健康維持に大きな効果が期待できるのです。
では、正しい深呼吸の方法をご説明しましょう。
正しい深呼吸の方法
1. 背筋を伸ばし、肩の力を抜いてリラックスした状態で座るか立つ。
2. ゆっくりと鼻から息を吸い、腹部を膨らませ、4秒程度かけてゆっくり吸い込む。
4. 吸い終わったら、2秒程度息を止める。
5. 口をすぼめて、6〜8秒かけてゆっくりと息を吐き出し、.腹部がへこむ感覚を意識する。
この一連の動作を5〜10回程度繰り返す。
吸う時は腹部が膨らみ、吐く時は腹部がへこむように意識してください。肩や胸に力が入っていないかを確認し、おなかで呼吸している感覚を大切にします。
深呼吸は、日常生活の中で簡単に実践できるセルフケア方法のひとつです。
朝起きた時、仕事の合間、就寝前など、1日に数回、数分間ずつ行うことで、心身のバランスを整えることができます。
【参考文献】”Mastering the Art of Proper Breathing” byMissouri Baptist Medical Center
https://www.missouribaptist.org/Healthy-Living/Healthy-Living-Post/ArtMID/521/ArticleID/1532/Mastering-the-Art-of-Proper-Breathing
【参照文献】厚生労働省『腹式呼吸をくりかえす|こころと体のセルフケア』
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/youth/stress/self/self_03.html
4.おわりに
深呼吸時に咳が出る症状はさまざまな疾患を示唆する可能性があります。
症状が続く場合は呼吸器内科をはじめとする専門医の診察を受け、早期発見と治療を心がけましょう。
また、深呼吸にはリラックス効果や姿勢改善などの健康効果があります。手軽に日常生活に取り入れることで、健康維持に役立てましょう。