子どもの時の喘息が大人になって再発したかも…?
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

喘息には、大きく分けて「小児喘息」と、大人になってから発症する「成人喘息」があります。
喘息の患者さんの多くの方が小児喘息を経験しますが、成人になってから突然喘息症状が現れることもあります。
この記事では、主に成人喘息に焦点を当て、特徴や治療や対処方法についてご説明いたします。
成人喘息は小児喘息とは異なる特徴を持つため、適切な理解と管理が重要です。
1. 大人になってから発症する「成人喘息」
成人喘息は、18歳以降に発症する喘息のことをいい、小児喘息とは異なる特徴を持つ呼吸器疾患です。その症状や原因、管理方法には成人喘息ならではの特性があります。
成人喘息の主な特徴として、以下のようなものがあげられます。
・症状の出現と進行の仕方
成人喘息の症状は、小児喘息に比べて比較的緩やかに進行することが多いです。しかし、突然重症化する可能性もあるため、注意が必要です。
また、典型的な「ヒューヒュー」「ゼーゼー」という喘鳴音よりも、持続的な咳や息苦しさが主症状となることが多いのが特徴です。
・持続性と治療の重要性
成人喘息は、小児喘息と比べて完全に治癒することが難しいとされています。そのため、長期的な管理がとても重要です。
適切な治療と自己管理を継続することで、症状をコントロールし、健康的な生活を維持することが可能になります。
・ 症状の多様性と個人差
成人喘息の症状は個人差が大きく、以下のような多様な形で現れることがあります。
1. 発作的な激しい咳
2. 常に絡む痰
3. 持続的な胸の違和感
4. 動悸や息切れ
5. 夜間限定の息苦しさ
・併存疾患の影響
成人喘息の場合、ほかの疾患(例:慢性閉塞性肺疾患、逆流性食道炎など)を併発していることが多く、これらが喘息症状に影響を与えることがあります。
とくに、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や逆流性食道炎などは、症状の管理をより複雑にする要因となります。
・環境因子と生活習慣の影響
職場環境や生活習慣が発症や症状の悪化に大きく関与することがあります。とくに以下の要因に注意が必要です。
1. 職場での化学物質や粉じんへの暴露
2. 喫煙習慣
3. ストレスや過労
4. 不規則な生活リズム
5. 肥満(とくに内臓脂肪型肥満)
成人喘息の方は、これらの特徴を理解し、医師と相談しながら適切な管理を行うことが大切です。
症状が軽くても油断せず、継続的な自己管理と定期的な受診を心がけることで、より良い生活の質を維持することができます。
〈参考文献〉”Asthma in Adults” by Asthma and Allergy Foundation of America
https://aafa.org/asthma/living-with-asthma/asthma-in-adults/
2. 気道に炎症があると伴うリスクとは
喘息の本質は、気道の慢性的な炎症です。
気道の炎症状態が続くと、さまざまなリスクが伴います。
ここでは、気道の炎症とはどのような状態であるか、また、どのようなリスクがあるのかをご説明いたしましょう。
気道の炎症とは、気管支の内側を覆う粘膜が腫れ、過敏になった状態のことをいいます。
気道が炎症状態になると、以下のような変化が起こります。
・気道の狭窄
炎症によって気道の内側が腫れ、通気路が狭くなります。
・粘液の過剰分泌
炎症によって粘液(たん)の分泌が増え、気道を塞ぐ原因となります。
・気道過敏性の亢進
炎症によって気道が刺激に敏感になり、わずかな刺激でも反応しやすくなります。
これらの変化により、さまざまなリスクが生じる可能性があります。
最も顕著なリスクのひとつは呼吸困難です。
気道が狭くなることにより、息苦しさや胸部の圧迫感が頻繁になります。
とくに運動時や夜間に顕著になることが多く、日常の活動や睡眠の質に大きな影響を与える可能性があります。
また、持続的な咳を引き起こす原因となります。
とくに夜間や早朝に悪化する傾向があり、患者さんの睡眠を妨げ、疲労感や集中力の低下をもたらすことがあります。慢性的な咳は、社会生活や仕事にも支障をきたす可能性も否定できません。
さらに深刻なリスクとして、突然の喘息発作があげられます。
気道の状態が急激に悪化すると、重度の呼吸困難を伴う発作が起こる可能性があり、迅速な医療介入が必要です。
長期的な観点では、持続的な気道の炎症が肺機能の低下を引き起こす可能性があります。
最後に、慢性的な炎症による気道のリモデリングは、とくに注意をする必要があるリスクです。構造的変化により、気道が元の健康な状態に戻りにくくなり、治療が難しくなる可能性があります。
成人喘息の発作は、これらのリスクが重なって起こります。発作時には、気道がさらに狭くなり、呼吸が困難になります。
発作の程度は軽度から重度までさまざまで、重度の場合は緊急の医療処置が必要です。
〈参考文献〉”Mechanisms of Airway Hyperresponsiveness in Asthma: The Past, Present and Yet to Come” by National Library of Medicine
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4386586/
3. 成人喘息のほとんどが「非アトピー型」
喘息には、アトピー(アレルギー)型と非アトピー(非アレルギー)型がありますが、成人喘息の場合、多くが非アトピー型であることが特徴的です。
ここでは、非アトピー型喘息の特徴と、アトピー型との違いについてご説明します。
【非アトピー型喘息の主な特徴】
非アトピー型喘息の主な特徴として、以下のような点があげられます。
・アレルギー反応以外の要因
非アトピー型喘息は、特定のアレルゲンに対するアレルギー反応ではなく、ほかの要因によって引き起こされます。
・発症年齢
主に成人期以降に発症することが多く、40歳以降に発症するケースも少なくありません。
・原因の多様性
感染症、ストレス、喫煙、大気汚染、職業性の刺激物質など、さまざまな環境因子が原因となる可能性があります。
・症状の特徴
咳や息切れが主な症状となることが多く、典型的な喘鳴(ゼーゼーという音)が聞こえにくいことがあります。
・治療反応性
ステロイド薬などの抗炎症薬に対する反応が、アトピー型に比べて弱いことがあります。
【アトピー型喘息との主な違い】
アトピー型喘息との主な違いとして、以下のようなことがあります。
・アレルギー検査
非アトピー型では、アレルギー検査(IgE抗体検査など)が陰性となることが多いです。
・家族歴:アトピー型に比べ、喘息やアレルギー疾患の家族歴が少ない傾向があります。
・合併症:非アトピー型では、慢性副鼻腔炎やアスピリン喘息などの合併が多いとされています。
・予後
非アトピー型は、アトピー型に比べて完全寛解(症状が完全に消失すること)が難しいとされています。
非アトピー型喘息の方は、アレルゲンの回避に加え、さまざまな環境因子に注意を払う必要があります。たとえば、感染症の予防、ストレスの管理、禁煙、大気汚染の回避などが重要です。
また、非アトピー型喘息は原因の特定が難しいため、症状の管理がより大切になります。
定期的な受診と、医師の指示に従った薬物療法を継続することが大切です。さらに、後述するピークフローメーターを用いた自己管理も効果的です。
同じ非アトピー型喘息であっても、患者さんによって症状や原因が異なる可能性があります。そのため、ご自身の症状や悪化要因をよく観察し、医師と相談しながら最適な管理方法を見つけていくことが重要です。
〈参考文献〉”Types of asthma” by ASTHMA+LUNG UK
https://www.asthmaandlung.org.uk/conditions/asthma/types-asthma
4. 成人喘息のほとんどが突然発症
成人喘息は、子どもの時の喘息が再発するケースもありますが、多くの場合は突然に発症します。20代から70代まで幅広い年齢層で発症する可能性があります。
成人喘息の発症が突然起こった場合、多くの方が予想外の事態となるでしょう。それまで全く症状がなかった方が、ある日突然呼吸困難や咳に悩まされるためです。
これらの症状は、風邪や気管支炎と間違って認識されやすく、適切な診断が遅れる可能性があります。
成人喘息の発症には、さまざまな要因が関連しています。
生活環境の変化、たとえば、引っ越しや転職は、新たな環境アレルゲンに接する機会や生活リズムの変化をもたらし、喘息の発症を引き起こす可能性があります。
また、仕事や人間関係などによる精神的ストレスも重要な要因です。
呼吸器感染症、とくに風邪やインフルエンザは、気道の炎症を引き起こし、喘息症状を誘発する主要な要因です。
職場環境も無視できません。化学物質や粉塵に日常的にさらされる職場では、職業性喘息のリスクが高まります。
さらに、長年の喫煙習慣も突然の喘息発症につながる可能性があります。
喫煙は気道に直接的なダメージを与え、喘息の発症リスクを高めます。これらの要因が複合的に作用し、それまで症状のなかった方でも突然喘息を引き起こすことがあるのです。
成人の方が突然喘息を発症した場合、迅速かつ適切な対応をすることが大切です。
長引く咳や息苦しさなどの症状が続く場合は、早めに呼吸器内科への受診を検討しましょう。
受診の際には、症状の詳細や生活環境の変化について、医師に詳しく伝えることが必要です。
正確な診断のために、肺機能検査やアレルギー検査などの必要な検査を行います。
診断が確定したら、適切な治療を開始します。多くの場合、吸入ステロイド薬などの抗炎症薬が処方され、これらは喘息の長期管理に役立ちます。
同時に、生活習慣の見直しも重要です。
喫煙者の方の場合は禁煙を検討し、ストレス管理や適度な運動習慣の改善など、全体的な健康状態の向上を目指すことが喘息管理に有効です。
成人喘息の突然発症は、決して珍しいことではありません。しかし、その突然性ゆえに適切な対応が遅れることがあります。症状に気づいたら、自己判断せずに専門医を受診することが大切です。
早期発見・早期治療により、症状のコントロールが容易になり、より良い生活の質を維持することができます。
突然発症した喘息であっても、適切な管理により多くの方が日常生活を支障なく送ることができます。医師との良好な関係を築き、定期的な受診と自己管理を継続することで、喘息とうまく付き合っていくことが可能です。
〈参考文献〉”Adult-Onset Asthma” by Allergy&Asthma NETWORK
https://allergyasthmanetwork.org/news/adult-onset-asthma/
5. ピークフローメーターで気道の状態を自己管理
ピークフローメーターは、喘息患者さんがご自宅で簡単に気道の状態を測定できる機器です。
ピークフローメーターを使うことで、毎日の気道の状態を客観的に把握し、効果的な自己管理を行うことができます。
ここからは、ピークフローメーターの使用方法とメリットについてご説明しましょう。
【ピークフローメーターとは】
ピークフローメーターは、息を最大限に吹き出したときの最大の流速(ピークフロー値)を測定する機器です。測定する値は、気道の狭窄の程度を反映するため、喘息の状態を把握する指標となります。
使用方法は以下の通りです。
1. 立位または座位で背筋を伸ばした姿勢をとります。
2. メーターの目盛りを0に合わせます。
3. 大きく息を吸い込みます。
4. マウスピースをくわえ、唇を密着させます。
5. できるだけ強く、短く息を吹き出します。
6. 測定値を記録します。
7. 1〜6の操作を3回繰り返し、最大値を採用します。
ピークフローメーターには多くのメリットがあります。
まず、ピークフローメーターは症状が現れる前に気道の狭窄を検知できるため、早期に異常を発見し、発作を予防するのに役立ちます。
また、感覚的な判断ではなく、数値で気道の状態を客観的に評価できるのも大きな利点です。
治療面では、薬の効果を数値で確認できるため、適切な治療管理に役立ちます。
日々の測定を通じて、患者さんご自身の喘息に対する理解が深まり、自己管理能力の向上にもつながるでしょう。
さらに、測定結果を医師に示すことで、より適切な治療方針を決めることができます。医師とのコミュニケーションもしやすくなり、より効果的な治療が可能です。
長期的な使用では、定期的な測定により季節変動や環境変化による影響を把握できるため、ご自身の喘息の傾向を把握するのに役立ちます。
また、緊急時には発作の重症度を客観的に判断する材料となり、適切な対応を取ることができます。
ピークフローメーターを効果的に使用するためには、以下のポイントをおさえましょう。
・測定時間の一定化
毎日同じ時間帯(例:朝起床時と就寝前)に測定することで、比較しやすくなります。
・記録の継続
毎日記録し、グラフ化することで変化の傾向がわかりやすくなります。
・自己最良値の把握
症状が安定しているときの最大値(自己最良値)を把握し、基準にします。
・医師との相談
測定結果に基づいて、どのような対応をすべきか、事前に医師と相談しておきましょう。
・清潔な管理
機器を清潔に保ち、定期的に消毒することで、正確な測定と衛生面の維持ができます。
・正しい測定技術の習得
医療機関で正しい使用方法を学び、定期的に確認することが大切です。
ピークフローメーターでの自己管理は、喘息のコントロールをよくする有効な手段です。
一方で、これはあくまでも補助的なツールであり、医師の診察や指示に基づいた治療が基本となります。
ピークフローメーターの使用について不安や疑問がある場合は、遠慮なく担当医に相談しましょう。
6. 成人喘息でもアレルギー物質に気をつけよう
成人の喘息患者さんにとって、アレルギー物質(アレルゲン)への注意は重要です。非アレルギー型喘息であっても、アレルゲンが症状を悪化させる可能性があるためです。
主に注意すべきアレルゲンとしては、ハウスダスト、花粉、ペットの毛、カビなどがあります。
これらのアレルゲンに対処するため、室内環境の整備が不可欠です。こまめな掃除と換気を行い、寝具は定期的に洗濯し、可能であれば防ダニ加工のものを使用しましょう。
また、湿度管理も重要で、カビの発生を防ぐために適切な換気と除湿を心がけます。
外出時は花粉情報に注意し、必要に応じてマスクを着用することも効果的です。就寝時のマスク着用も喘息症状の改善に役立つ可能性があります。
ペットを飼っている場合は、できるだけ寝室への立ち入りを制限し、こまめにブラッシングを行うことが大切です。また、定期的にアレルゲン検査を受け、ご自身のアレルギー傾向を把握することも重要です。
これらの対策をすることで、喘息症状の管理をしやすく改善し、より快適な生活を送ることができます。
ただし、過度に神経質になる必要はなく、ご自身の症状とアレルゲンとの関連を注意深く観察し、医師と相談しながら適切な対策を取ることが大切です。
【参照文献】環境再生保全機構 『ぜん息とは』
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/knowledge/index.html
7. おわりに
成人喘息は突然発症することがあり、多くが非アトピー型です。気道の慢性的な炎症が本質のため、適切な管理が重要です。
ピークフローメーターを活用した自己管理や、環境整備などの予防措置が効果的だといえるでしょう。
医療機関での適切な治療と日常生活での自己管理を組み合わせることで、症状をコントロールし、充実した生活を送ることができます。